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工藤夫婦の堕落【第二章:妻の変化】

最終更新:2016/11/26 19:00 │ 【小説】工藤夫婦の堕落 | コメント(0)

【第二章】妻の変化




咲希が倉田の元で働くようになって、既に2カ月が経過していた。家にいたころは露出の控えめな服装を好み、同級生の結婚式のときでさえ派手な化粧をすることがなかった彼女だったが、今は人が違ったように派手な格好で外を歩くようになった。薄手のブラウスにタイトスカート。普段履いたことのない柄の入ったストッキングに、ビジネスには不釣り合いな高いヒール。大きくあいた胸元からは、光の加減によってはかすかにブラジャーの色がうかがえそうだった。課の女性はみな眉をひそめ、一方男たちはみなすれ違いざまにさりげなく妻の胸をのぞき込む・・・そうした蠱惑的な服装だった。



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翔太は、夜の生活を引き続き拒否されたままでいた。倉田との仲を疑ったことは一度や二度ではなかったが、何度も拒否されるうちに彼は断られること自体が情けなくなり、いつしか妻の体に触れることも、服を脱いだ姿を見ることもなくなっていた。

服装にしろ、自分との性生活にしろ、それが咲希自身の意志なのか、倉田が何らかの命令をしているのか、彼にはわからなかった。ただ、今まで自由に抱いていた「僕だけの妻」を今は抱けず、今や他人の好色な視線にさらされていることに、渦巻く嫉妬とみじめさを感じていた。それでも、自分の収入の負い目から妻を上司に差し出した手前、彼は彼女の服装ひとつにすら文句をつけられない立ち場に落ちていた。


倉田と同じ課にいるとはいえ、翔太は朝夜のミーティング以外、基本的には一日中得

意先を回っているので、オフィスにいる咲希と顔を合わせる機会は少ない。しかし、時折社に戻ると、ガラスで仕切られた倉田のブースの中で、妻と倉田が笑顔で談笑しているのが遠目に見え、彼の心はそのたびに傷ついた。しかし、本当に辛かったのは、ガラス越しに見える課のホワイトボードを見ては、二人が彼を嘲笑しているように感じることだった。ボードにはその月の営業成績を現すグラフが貼ってあるのだが、「工藤翔太」の名の横にだけ、グラフがないのである。月契約ゼロ。自分が本当に仕事ができないと妻に知られたことが、彼にとっては何よりも情けなかった。


 以前は毎日のように妻を抱き、ラストの口内射精を楽しんでいた彼の下半身は、この数ヶ月の禁欲生活にじりじりと責められ、耐えきれなくなりそうになっていた。妻が処理しなくなった彼の性欲を受け止めてくれるのは、ティッシュと彼自身の右手になった。妻が寝静まってから、いそいそとリビングのパソコンを起動させ、お気に入りのアダルト動画を見たり、マニアックな風俗――特にお気に入りなのはM男を言葉責めしながら寸止めフェラチオで何度も責め立てるというサービスを売りにしたイメクラだった――のサイトを見て、咲希がそうしたいやらしい行為をしてくれるのを想像しては、陰茎を必死でこすりあげる毎日を、彼は送っていた。


翔太は昔から早漏で、短小で、そしてみじめな仮性包茎だった。一度に吐き出す精液の量は人並みよりも少なく、薄かった。ドピュドピュと精液が尿道を押し分け、勢い良く宙を舞うような猛々しい射精ではなく、『ぴゅるっ』と小さじ一杯のミルクが申し訳程度に出るのが、彼にとってのクライマックスだった。深夜の密かなオナニーもせいぜい十分程度で終わってしまう。新婚のころの咲希は、夫の卑小な精力をあざ笑うようなことはせず、いつも喜んで彼と情交を交わしていた。彼女はおそらく自分や父親以外の男の下半身を見たことがないだろうと翔太は思っていたので、若い頃は「いつか、咲希は僕の下半身が普通より劣っていることに気づくのではないか?」とびくびくしていたが、結婚してからの毎日の性生活に、彼は自分のテクニックに多少なりとも自信を持つようになっていた。 いつも自分から腰を振り、より深い挿入を求めては快感にあえぐ咲希。道具より、要はその使い方のほうが肝心なのだと翔太は信じてきたし、自分の夜の技術はそれなりに優れたものなのだろうという楽観的な自負すら持っていた。


* * *


「じゃあ、行ってくるね、咲希」

「はぁい、行ってらっしゃい。夜は倉田さんと食べてくるから、先に寝てて良いわよ」


朝は、翔太が先に家を出ることがほとんどだった。新婚時代のように、愛妻弁当が登場するようなこともない。翔太が出社して早朝の業務を終え、午前のミーティングに参加しているころ、倉田は咲希を従えて悠々と課に姿を見せる。以前は翔太と同じく電車で出社していた咲希だが、最近は倉田がBMWで家まで迎えに来るようになっていた。まるで、秘書というより愛人じゃないか。彼がガラスの向こうで笑顔で会話している妻と上司を尻目に毒づいても、誰も顧みるものはいない。そして翔太が昼周りに出て、午後の業務を終えて社に戻ると、二人はもういなくなっている。残業をして帰宅したとき、家で咲希が待っている可能性は、だいたい三割ほどだ。「接待は金曜くらいで、普段は早めに帰れる」という妻の約束は、いつのまにか反故になった。


今日も翔太はコンビニで買った弁当をレンジであたため、缶ビールを片手にテレビを見ながら、咲希の帰りを待っていた。0時過ぎ。いつものようにBMWの小気味よいブレーキ音と玄関のドアを開け閉めする音がして、咲希は帰宅した。


「ああ、今日はちょっと酔っちゃった。翔太さん、今日は契約取れた? うふっ、ごめんごめん。嫌みのつもりじゃないのよ。じゃ、お先に」

それで、今日の夫婦の会話はおしまいだった。咲希はリビングのドアを素通りしてそのまま寝室に行き、シャワーを浴びて、すぐに寝入ってしまう。食事をともにすることも、一日の終わりに談笑することも、夫婦の交わりも、何もかもこの家庭からはなくなった。翔太はこっそりと寝室をのぞき、咲希が寝入ったことを確認すると、むしろほっとした表情を浮かべる。そして、息をひそめてPCを起動するや、今日の「日課」にいそしむのだった。



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